プレート式熱交換器に起こりやすいトラブル
プレート
全面腐食
ステンレス鋼に代表される耐食金属には、表面に不動態皮膜という安定した酸化皮膜が形成されています。全面腐食では、この不動態皮膜が形成されない状態で腐食が進行するため、全面にわたって均一に進行し、表面は金属光沢を失って肌荒れした状態が観察できます。
隙間腐食
ステンレス鋼を代表する腐食形態で、プレート式熱交換器の場合にも、発生頻度の多い事例です。
構造上隙間が発生する部位や、ガスケットシール面、沈殿物などの隙間で発生する腐食です。
隙間内では溶存酸素が不足しがちな環境となるため、時間の経過にともない不動態皮膜が破壊され、腐食が進行します。
エロ―ジョン・コロージョン
流体中のスラリーなどの連続的な衝突により金属表面の皮膜が剥ぎ取られ、その部分が局部的に深く浸食される型の腐食を、エロージョン・コロージョンといいます。
一般的に、配管の絞り部、曲がり部など、局所的に流速が大きくなる箇所に発生しやすく、その進み方は、金属や流体の種類、温度、流体の流れの状態によって異なります。
応力腐食割れ
材料に外部応力が作用したり内部応力が存在するために、金属の腐食を起点として割れを生じる現象です。
応力が作用している部分には、表面皮膜の破壊、原子の移動、空孔などが発生しやすく、その部分が腐食環境にさらされると優先的に腐食が進行します。
腐食は応力によって加速されてさらに進行し、割れや破壊にいたります。
疲労割れ
材料がある力を繰り返し受けることによって破壊する現象です。
通常では破壊をおこさないような低い負荷でも、繰り返し与えることによって局部的な塑性変形(外力を除いても元にもどらない変形)が生じ、小さな亀裂が進展して全体的破壊にいたります。
変形
凍結割れ
水と氷点下の低温流体を熱交換する際に、水よりも先に低温流体を熱交換器に流したり、外気温が氷点下の環境で運転を停止した際に熱交換器内に水が残留するなどの水が凍結するような運転管理をした場合に発生します。一般的に運転・停止時に凍結・解凍を繰り返すことで水の凍結による体積膨張により伝熱プレートの変形が進行し、割れに至ります。
プレートのトラブル事例
腐食を伴う事例
硫酸×蒸気の加熱用途にて1年2ヵ月使用
全面腐食
○使用期間 約1年2ヵ月
○プレート材質 UNS N10276 (ハステロイC-276相当)
○使用流体 0.2MPa蒸気/15%硫酸
○使用温度 135℃/90℃
○用途 製品の酸洗工程に使用する硫酸の蒸気加熱器
○現象
硫酸側を起点とした全面腐食が発生したと推測されます。それにより貫通割れが発生しました。蒸気側プレートには腐食の徴候はありません。硫酸入口(伝熱プレート下部)近傍は腐食が軽微ですが、加熱され高温となる硫酸出口(伝熱プレート上部)近傍では板厚減少を伴う腐食が進行しています。
○原因
蒸気温度が高いことが原因です。硫酸側出口近傍の壁面温度は蒸気温度近くまで上がるため、部分的に昇温された硫酸により著しく腐食し、貫通割れが発生したと推察します。
○対策
全面腐食に対する伝熱プレートの延命化には、鋼種変更、より板厚の厚い伝熱プレートへの変更が対策として挙げられます。また、本事例のように伝熱プレート上部と下部で腐食の進行に差がある場合、定期的に伝熱プレートを上下反転して使用することも延命化の効果が期待できます。
苛性ソーダ×冷却水の冷却用途にて4年5ヵ月使用
隙間腐食
○使用期間 約4年5ヵ月
○プレート材質 NW2200(純ニッケル)
○使用流体 32%苛性ソーダ/冷却水
○使用温度 100℃
〇用途 苛性ソーダの濃縮プロセスにおける苛性ソーダの冷却器
○現象
機器分解した際に冷却水側プレートに多量のスケールが付着しており、洗浄後に伝熱プレート同士の当たり点に腐食を伴う貫通孔が確認されました。苛性ソーダ側プレートには腐食の徴候はありません。
○原因
冷却水側プレートにおいて伝熱プレート同士の当たり点に付着したスケール下で冷却水中のCl-が濃縮することにより隙間腐食が進行し貫通孔が発生したと推察します。
○対策
プレート式熱交換器は、伝熱プレートとプレートガスケットの間や伝熱プレート同士の当たり点など隙間を多くもつ構造をしており、隙間腐食が発生しやすい機器といえます。隙間腐食は機器の構造上の隙間部にスケールが付着することで発生頻度が高くなりますので、定期的な分解洗浄にてスケールを除去することが大切です。また、プレート材質のNW2200は苛性ソーダに対して良好な耐食性を示しますが、Cl-の存在は隙間腐食の原因となります。定期的な分解洗浄に加えてCl-の低減といった水質管理も必要となります。
処理水×濾過水の冷却用途にて約2年使用
隙間腐食
○使用期間 約2年
○プレート材質 SUS304
○使用流体 処理水/濾過水
○使用温度 50℃
〇用途 処理水の冷却器
○現象
処理水側プレートの伝熱プレートとプレートガスケットの間の隙間部にスケールが堆積し、腐食による貫通孔が発生しました。
○原因
ステンレス鋼は、中性の水に対して十分な耐食性がありますが、Cl-のアタックや表面への異物の付着・剥離など、何らかの原因で表面の酸化皮膜が破壊された場合そこが起点となり腐食が進行します。腐食起点部発生後、スケール付着による隙間腐食が進行したと推察します。
○対策
プレート材質を耐隙間腐食性が良好なSUS316へ変更、水質改善によりCl-の低減を図る、定期的な分解洗浄によりスケールの堆積を低減するなどの対策が考えられます。
スケールの付着は、本事例のような腐食の原因となるだけでなく、圧力損失の上昇や伝熱性能の低下の原因となります。
上水×井戸水の冷却用途にて3年使用
隙間腐食
○使用期間 約3年
○プレート材質 SUS316
○使用流体 上水/井水
○使用温度 41℃
〇用途 上水の冷却器
○現象
井水側伝熱プレート全面にスケールが付着し、プレート伝面において伝熱プレート同士の当たり点及び自由表面で腐食の徴候が確認されました。スケールは調査の結果、Feを主体とした酸化物であることが分かりました。
○原因
Fe酸化物のスケールの付着により隙間腐食が発生したと推察します。一般的にFe分はステンレスに接触した場合、自身が錆びます。この時付着物はCl-の濃縮の原因となり、酸化皮膜の破壊を促進し易い環境を作ります。
○対策
伝熱プレートへのスケール付着を低減するために、定期的な分解洗浄を推奨します。
スケールの付着は、本事例のような腐食の原因となるだけでなく、圧力損失の上昇や伝熱性能の低下の原因となります。
水×水の冷却用途にて19年使用
隙間腐食
○使用期間 約19年
○プレート材質 SUS304
○使用流体 水
○使用温度 40℃
〇用途 水の冷却器
○現象
これまで機器の圧力損失が高くなるタイミングでメンテナンスを実施していましたが、近年のメンテナンスで伝熱プレートに貫通孔が確認されました。伝熱プレートには軟質のスケールが付着しており、貫通孔は通路孔近傍や伝面など一部の箇所で腐食を伴い発生しました。
○原因
スケール下でCl-の濃縮による隙間腐食が進行したものと推察されます。
○対策
長期間使用できていたことからメンテナンス方法、頻度は適切であったと判断します。メンテナンス実施のタイミングは、性能低下、圧力損失の上昇、ガスケットの交換や伝熱プレートの腐食など使用条件によって様々です。
機器の運転状況から、適切なメンテナンス実施時期を設定することを推奨します。
硫酸×冷媒の冷却用途にて3ヵ月使用
エロージョン・コロージョン
○使用期間 約3ヵ月
○プレート材質 SUS315J1
○使用流体 35%硫酸/冷媒
○使用温度 50℃
〇用途 表面処理工程における硫酸の冷却器
○現象
硫酸側伝熱プレート表面には赤茶色のスケールが付着し、全面腐食が見られます。
また、硫酸側プレートでは流速が上がる通路孔部近傍で著しく減肉し、貫通孔が発生していました。
○原因
硫酸による全面腐食により発生した腐食生成物が通路孔近傍を流れ、腐食で脆くなった伝熱プレートが摩耗することで進行したエロージョン・コロージョンであると推察されます。35%硫酸に対してプレート材料が適していないことが原因です。
○対策
硫酸に対して耐食性の高いプレート材質に変更が必要です。本事例では、UNS N10276(ハステロイC-276相当)製プレートに更新しました。
硫酸の腐食性は濃度によって大きく異なります。使用条件に適した材質選定が必要です。
熱水×温泉水の熱回収用途にて7ヵ月使用
応力腐食割れ
<事例1>
○使用期間 約7ヵ月
○プレート材質 SUS316
○使用流体 熱水/温泉水
○使用温度 150℃
〇用途 温泉水を熱源とするバイナリー発電
○現象
熱水に含まれる異物が器内に流入し、伝熱プレート下部に堆積していました。異物が堆積した箇所には、ひび割れ状の貫通割れが発生しました。
○原因
熱水側の伝熱プレートに付着した異物と伝熱プレートとの隙間部でCl-等の腐食因子が局部的に濃縮することでステンレス鋼の酸化皮膜が破壊され、伝熱プレートの締付荷重や運転圧力による応力によって割れが進展したと推察します。割れの形態は隙間腐食を起点とした応力腐食割れと推察します。
○対策
応力腐食割れの発生要因は、腐食環境、継続的な応力の存在、材料特性となり、この内1つの要因を取り除くことで応力腐食割れは発生しないと考えられています。従って、器内へ流入する異物量の低減、あるいは定期的に分解洗浄を実施し異物の堆積を防止する、プレート材質をより高耐食性のある材質に変更するといった対策が考えられます。
また、器内への異物の流入は本事例のような腐食の原因となるだけでなく、圧力損失の上昇、伝熱性能の低下の原因となります。
腐食以外の事例
食酢×冷却水の冷却用途にて3ヵ月使用
疲労割れ
○使用期間 約3ヵ月
○プレート材質 TP270
○使用流体 食酢/冷却水
○使用温度 60℃
〇用途 食酢の冷却器
○現象
食酢側の伝熱プレートにおいて隣り合う伝熱プレートとの当たり点でひび割れ状の貫通割れが発生し、その周囲には伝熱プレート同士が擦れたと見られる摩耗痕が確認されました。また、貫通割れ箇所の破面には、繰り返し応力が作用した痕跡であるストライエーションが確認されました。圧力の実測結果で、冷却水側の圧力が瞬間的に変動していることが確認されました。
○原因
冷却水側の圧力変動により、食酢側の伝熱プレートの当たり点において繰り返し応力が作用したことで発生した疲労割れと推定します。
○対策
短期間の運転で疲労割れが発生していることから、圧力変動の低減が必要です。その他の対策としては、伝熱プレートの強度を上げるためより板厚の厚い伝熱プレートに更新する、圧力変動によるプレートの振動を抑制するために伝熱プレートを増し締めするなどが考えられます。
蒸気×2次水の加熱用途にて1年11ヵ月使用
疲労割れ
○使用期間 約1年11ヵ月
○プレート材質 SUS316
○使用流体 蒸気/2次水
○使用温度 144℃
〇用途 2次水の加熱器
○現象
2次水側伝熱プレートの2次水出口通路孔近傍でひび割れ状の貫通割れが発生しました。貫通割れ箇所に腐食の徴候及び伝熱プレートの変形はありませんでしたが、伝熱プレート同士が擦れたと見られる摩耗痕が確認されました。摩耗痕は伝熱プレートの表面(2次水側)と裏面(蒸気側)の両面で見られましたが、表面で著しく摩耗していました。
○原因
貫通割れの原因は繰り返し圧力による疲労割れによるものと推察します。また、割れ箇所は蒸気入口近傍で発生していることから、蒸気入口の圧力変動によるものと推察します。
○対策
蒸気調節弁の調整により、蒸気の圧力変動の緩和が必要です。
プロセス液×プロセス液の熱回収用途にて1年使用
疲労割れ
○使用期間 約1年
○プレート材質 SUS316(t0.8)
○使用流体 プロセス液
○使用温度 120℃
〇用途 プロセス液の加熱器
○現象
短期間の運転で貫通割れを起因とする外部漏洩が発生しました。貫通割れは伝熱プレートのガスケットシールライン上やその付近で発生しており、機械的な力の作用によりひび割れたような形状をしていました。
○原因
断面と破面観察の結果から、応力腐食割れと疲労割れの特徴が見られますが、破損した箇所から疲労割れが主要因である貫通割れと推察します。
破損部はプレートガスケットと伝熱プレートの当たり点で拘束される箇所であり通常、疲労割れは起こりませんが、プレート編成を誤って組立てた場合、プレートの当たり点が隣の伝熱プレートと接触しないため、このような破損が発生する可能性があります。
○対策
プレート編成を確認してください。伝熱プレートは1枚おきに上下反転させて組み込みます。同じ向きの伝熱プレートが連続して編成された場合、運転圧力によっては漏洩しなくても、伝熱プレートに変形や割れが発生することがあります。プレート編成については、「エレメント構成図」、「取扱説明書」を参照してください。
潤滑油×冷却水の冷却用途にて1ヵ月使用
清水×海水の冷却用途にて11ヵ月使用
変形
○使用期間 約11ヵ月
○プレート材質 TP270
○使用流体 清水/海水
○使用温度 50℃
〇用途 清水の冷却器
○現象
E.フレームとEプレートの間から外部漏洩が発生し、機器分解した際にEプレートの清水入口通路孔部に伝熱プレートの変形と貫通割れが確認されました。また、清水入口側のプレート通路孔には配管施工時のものと思われる溶接スラグやナットが確認されました。
○原因
溶接スラグやナットは当社の製造工程上のものではなく、配管施工時のものと推察されます。それら異物が機器に流入し、繰り返し衝突することにより、伝熱プレートの変形、破損に至ったと推察します。
○対策
機器への異物の流入を防止するために、配管接続の際には充分なフラッシングを実施してください。機器への異物の流入は、本事例のような伝熱プレートの変形や破損だけではなく、流路が閉塞することによる圧力損失の上昇や伝熱性能低下の原因となります。
冷媒×水の冷却用途にて11ヵ月使用
<事例>
○使用期間 約11ヵ月
○プレート材質 SUS316(銅ろう付)
○使用流体 冷媒/水
○使用温度 冷媒0℃以下
○現象
伝熱プレートが大きく変形して割れが発生、2流体が混合しました。
○原因
冷媒温度がマイナスになって水が凍結、体積膨張して伝熱プレートが変形しました。運転中に凍結と解凍が繰り返されたことでプレート変形が徐々に大きくなり、最終的に伝熱プレートが破断しました。
○対策
冷媒温度が0℃以下にならないような運転管理をする必要があります。
ガスケットのトラブル事例
潤滑油×ボイラ給水の冷却用途にてガスケットを1ヵ月使用
変形
○使用期間 ガスケット更新後約1ヵ月
○ガスケット材質 NBR
○使用流体 潤滑油/ボイラ給水
○設計圧力 1.2MPaG
〇用途 潤滑油の冷却器
○現象
運転開始後、短期間でS.フレームとDプレートの間からボイラ給水が外部漏洩しました。機器分解した際にDガスケットに蛇行が確認されました。運転は、ボイラ給水側のポンプの制御により0.5~1.0[MPaG]の圧力変動を数分間隔で繰り返していました。
○原因
本事例では、圧力変動の繰り返しによりDガスケットが蛇行し、シール圧力が低下したことが原因で外部漏洩したと推察されます。
○対策
ボイラ給水入口配管に減圧弁を設置し、圧力変動を緩和する必要があります。繰り返し発生する圧力変動以外にも、プレート式熱交換器は短時間での急激な圧力変動により、一時的にシール圧力が低下し、外部漏洩が発生することがあるため注意が必要です。
ST-FEED×ST-BTMの熱回収用途にてガスケットを1年使用
膨潤
○使用期間 約1年
○プレート材質 SUS316L
○使用流体 ST-FEED/ST-BTM
○使用温度 130℃
〇用途 熱回収
○現象
内部に液を溜めた状態で運転を休止し、1年後に運転を再開した直後に外部漏洩が発生しました。
漏洩は両液側に見られ、伝熱プレートには本来接液しない二重シール部に腐食と見られる肌荒れ及び貫通孔が確認されました。
また、機器分解直後のガスケットは再装着できない程伸びており、厚みが上昇し硬度が低下していることが分かりました。
○原因
プレートガスケットが膨潤することによりシール面圧が低下し、漏洩した流体が、二重シール部で濃縮、局部腐食が進行したと推察されます。
○対策
使用条件に適したガスケットを選定することが何より大事です。膨潤する可能性のある流体を使用される際は、事前に実液を用いた浸漬試験を実施し、適切なプレートガスケット材質を決定されることを推奨します。